『永い言い訳』のあらすじ 著者・西川美和さんへのインタビュー〜王様のブランチ

2015年3月21日 王様のブランチ 『永い言い訳』のあらすじと、著者・西川美和さん
へのインタビューです。

突然、家族を失った人たちはどのように人生を取り戻すのか?
映画監督・小説家の西川美和さんの最新作『永い言い訳』。

西川美和さんは映画・小説とともに発表されるたびに、国内外からその手腕を高く評価されています。

2006年に公開した『ゆれる』は、カンヌ国際映画祭に出品。
その後発表された同名小説は、第20回三島由紀夫賞の候補作になりました。

そして、地方医療がテーマのディアドクターはモントリオール世界映画祭に出展。
脚本執筆時に生まれた『きのうの神様』は、直木賞候補作になりました。

西川美和さんの3年ぶりとなる長編小説『永い言い訳』。
あらすじと、西川美和さんへのインタビューです。

永い言い訳のあらすじ

主人公は作家・津村啓。
テレビにも引っ張りだこの売れっ子だが大きなコンプレックスが一つ。
それは、本名が衣笠幸夫であること。あの野球界の名選手と全く関係ないが
名前が同じというだけで周囲から注目をあびてしまう。

この経験が幸夫のねじれた性格の基板となっていった。

妻の夏子は美容師。
幸夫の才能に期待をよせ稼げなかったころは家計を支えていた。
その自負が、幸夫が成功者となったいまぬぐいきれない妬みにかわった。

ある日、幸夫の髪を切りおわった夏子は女友達とバス旅行にでかけた。
「後片付けはお願いね」
「そのつもりだよ」
それが幸夫と夏子の最後の会話だった。

突然の事故で妻を失った幸夫。
夏子が亡くなったときいても涙を流すことさえできない。
幸夫は悲しさを演じることしかできなかった。

幸夫は同じ事故で夏子と一緒に亡くなった女性の家族と出会った。
子どもがいない幸夫にとって自分とは対局にいる幸せな一家。
彼らと接していくうち、夏子との生前の関係を見つめなおしていく。

子ども達やさまざまな人達との出会い、
そして彼らと過ごす時間が幸夫に変化をもたらしていく。

「愛するべき日々に、愛することを怠ったことの、代償は小さくない。」

西川美和さんが、人間関係の不確かさに迫った一冊です。

永い言い訳を書くきっかけは?

冷ややかな関係になっていた夫婦が「突然の別れ」に直面するところから始まります。

人には言えない後味の悪い別れを消化できない思いていうのは、どこにでもある。
これを書きたいなと思ったんですね。

身近な人に対してついぞんざいな態度をとってしまったり、
「あのときもう一言声をかけておけば良かったのに・・・」
と思ったことをやらずに済ませてしまうことが自分自身も多いので、
本を書きながら自分の人生を振り返る旅をするっていうような体験だったりします。

「非常に反省しました。自分の人生を」

永い言い訳への思いは?

愚かな人間を徹底的に書くっていうのは、自分の中の課題。
自分の持っている愚かさをあますことなく開かないと
人に届くものにならないと思ったので、
主人公のものになんとなくすり替えて書いていきました。

40代後半の男性の設定ではあるんですけれど、性とか年齢に限らず
いろんな人が自分の中にもこういう部分があって、
それは誰にも打ち明けられない恥ずかしいところであり
自分でも気にやんでいるけどどうしようもないところだと感じてくれて
広く共感してもらえるといいなと思います。

永い言い訳の執筆での初体験

しっかり子どもを書くというのは初めてですね。
180度ちがう生活環境も、思考回路も傾向もちがう2家族がどう交わっていくか。

実際に子どもがいる友人の家に何泊か泊まりこんだり、
保育園の送迎をしてみたり、夕食を一緒に食べてみたり。

親の体験をしているのではなく、
親意外の人間が迎えに来たとき彼らはどういう表情をするのか、
突然現れてた赤の他人の大人にどういうスピード感でなついていくのか、
などを体験しました。


「集大成です。出しつくしたのでも何もでません。
とうぶん何も書けないと思いますけれども、今までの自分自身の体験とか
生きながら何を考えてきたとかいうものも全部出した作品なので、
小説においては完全燃焼。」

永い言い訳を読んだ感想

本仮屋ユイカさんの『永い言い訳』を読んだ感想です。

愛する人との死別とか、生きていくことに対してもう一度踏みだすとか、
向き合っているテーマが重たく大きいので、自分も圧倒的な熱量で
読まなければいけないのかと思っていました、そうではなく、
すごく淡々としていて自分が楽な状態で読め、メッセージもストンと落ちてきました。

出てくる子どもがとっても魅力的で、小さい子供だから持っている
純粋なエネルギーや輝きや眩しさに、人としてダメな主人公が、
癒されて変わっていくのが読んでると微笑ましく癒やされまし。

この本のメッセージとは、
一番最後に「生きている それ自体が希望」ということに主人公が気づく、
それはとても当たり前なんだけど、「大丈夫?」と心配になるほどの
ダメ男だった主人公がそれを自分で気づけたっていうことです。