『蜩ノ記』で直木賞を受賞した葉室麟さんをインタビュー〜王様のブランチ

2012年1月28日の王様のブランチ『蜩ノ記』で直木賞を受賞した葉室麟さんをインタビュー。

葉室麟さんは、『蜩ノ記』で5度目のノミネートで直木賞受賞。
『ホッとして、もうこれで候補にならなくても済むのが一番嬉しいですね。落選を4回やっているとショックの方が大きくて。』た語っています。

元々は地方紙の記者で、50歳の時に時代小説・歴史小説作家になることを決意。
2005年『乾山晩秋』でデビューし、歴史文学賞を受賞しました。

『50歳くらいになると自分の行くすえが見えてくる、自分のやってきた仕事はこれでいいのかなと想い出すんですね。昔の伝統的のある日本人って何だろうと考えると、歴史小説がいいなと思ってやっています。』

長い間つちかわれてきた「日本人の美徳」を追求する葉室麟さん。
直木賞受賞作『蜩ノ記』のテーマはそれに通じています。

蜩ノ記』あらずじ

時は江戸後期。
藩主の側室と不義密通を犯した疑いで、山奥の村に閉じ込められた「戸田秋谷(とだしゅうこく)」。
彼にくだされた「さた」は、十年後の切腹だった。

「自ら望んで罪を背負ったのだ」
嫌疑に対し、一切の抗議の釈明もせず静かに切腹の時を待つ「戸田秋谷(とだしゅうこく)」。

「鳴く声は、命の燃える音に似て」

命を区切られた時、人は何を思い、いかに生きるのか・・・。

罪を犯したとは思えない清廉な男「戸田秋谷」
自らの身に起こった理不尽を泰然と受け止める。

「嘘偽りのない家譜を書き残す」

命じられた藩の歴史書の編纂を黙々と続けている。

「まことに奥方をいとおしく思っておられる」

そして、病気がちな妻をいたわり2人の子供達の成長を穏やかに見守っていた。
さらに、生活に困った農民達の暴走をくい止めようと命をかけた行動に出る。

「人は誰しもが必ず死に申す
 されば日々をたいせつに 過ごすだけでござる」

作者渾身の時代小説。

蜩ノ記』の着想のキッカケ

『60歳になって還暦を迎えたんです。この年代になると自分の命の残り時間を考えだす。考えて残り時間を使っていかなければならない。
「時間を限られた時に、どんな生き方をしたらいいのか」ということに直面した人を書きたかった。』

葉室麟さんの学生時代、敬愛する記録文学作家「上野英信」さんにどうしても会いたくなり訪ねていったことが、この小説に大きな影響を与えているのだそうです。
上野英信」さんは京都大学文学部を中退し、学歴を隠し、九州で炭鉱労働者をしながら単行問題を書き続けました。
「戸田秋谷」には、上野英信さんのイメージが反映されています。

『学生の時に上野さんをお訪ねしました。奥様がいらっしゃって飲みながら話をしましたが、つくしの卵とじが出てきたんです。上野さんは清貧で文学をやられていますが、奥様が工夫をして、客が来ると手料理を出される。「あんたが来るから、昼間土手へ行って採ってきたんだよ」と若い何もない者にしてくれたことに感動して、「僕も上野さんのような生き方をしたい」と思いました。』

蜩ノ記』のポイント

「敬うという美徳」

戸田秋谷さんの魅力は、誰に対しても敬意をはらうこと。
彼の仕事を手伝うことになった青年に対しても、家族に対しても節度を持って接している。
生活に苦しむ村人に対しても丁寧に接していて、時には彼らのために一肌脱ごうとする。
だから周りも戸田秋谷さんに対して一目をおくようになる。
人から大切にする人は、人を大切にする人なんだなと感じます。

『戸田秋谷さんと言う男性の、生き様にほんとうに胸を打たれました。
公私立場の中での父親としての「私」の立ち場と、藩士としての「公」の立場のどちらを立ててもどちらも立たないと言う、すごく難しい問題を耐え忍んで考えて見事に生き抜いていく。それを支える家族が、素晴らしいやり取りをしていて胸を打たれました。』(谷原章介さん)