2012年の注目若手作家 村田早耶香/著『ハコブネ』〜王様のブランチ

2012年1月14日の王様のブランチ 2012年の注目若手作家 村田沙耶香/著『ハコブネ』。理想の相手に巡り合えない方にオススメの作品です。

村田沙耶香さんは、女性の価値観や恋愛観を揺さぶる作品を沢山書き、最初の作品の短篇集『授乳』には

●「コイビト」
ぬいぐるみを恋人だと思っている女の子と、ぬいぐるみとの子供が欲しいと思っている女の子が出会う物語。

●「授乳」
気になる家庭教師との関係に悩んだ女子生徒が、家庭教師に思い余って授乳を試みる物語。

など、衝撃のストーリーを発表しています。
そこに至る心理描写が絶妙で、その世界観をしっかり感じ取れます。
読んだ人の支点を変えて、価値観を自由にしてくれるそんな作家さんです。

『ハコブネ』のあらすじ

19才のフリーター「里帆」。
男っぽく振るまい、アルバイト仲間の男たちとも男友達のようにふざけあう元気な女の子。
しかし、彼女には誰にも言えない悩みがあった。
大好きな人と出会っても、体を重ねることに嫌悪感をもってしまうのだ。

「もしかして、自分は男なのではないだろうか。」

女である事への違和感から始まった「里帆」の葛藤。
性別を調和することで、答えは導き出されるのか。
自分が女である事に疑問を抱き続ける「里帆」。
男装をしたり、女性を好きだと思ったりしてみることで、自身のあり方を見つけようとする。

「もう、何もかもわからなくなっちゃっいました。」

男、女という枠組みの中でもがき、混乱する「里帆」。
そんな時「里帆」の前に現れたのが、年上のOL「知佳子」。

「ただ素直にしていれば、そのままそれがいいんだよ」

そう囁く「知佳子」自身は男女の恋愛にリアリティーを感じられないでいた。
それは、自分が木や土と同じ母なる地球の一部としか思えないからだった。

「隣を流れる小川の水も、自分の身体の中を流れる水と繋がっているのだと感じる」

『ハコブネ』誕生のキッカケ

『私がずっと感じてきたものの1つとして“生きづらさ”があって、小さい頃から、長縄跳びが嫌いな子供でした。
「なぜそんなことをしなくてはいけないのか」
「なんでみんなで歌わなきゃいけないのか」
「何でこんなふうに色々な役割を押し付けられるのか」
とか小さいことで、嫌だな、上手く出来ないな、違和感を感じていました。その中でも女である事に違和感や辛さがあり、そんな気持ちをトコトン書いてみようと思って生まれたのが「里帆」という女の子でした。』

『知り合いの娘さんで、自分が女の子だということを受け入れられない、だからといって男の子なわけではなく、でも男の子みたいな格好をして自分のことを「オレ」呼んでいます。思春期の女の子にはあることのような気がしてました。
たとえば、クラスの中で点数を付けられ順番があって、女の子であることが上手で、優等生で点数の高い女の子と、女の子としては点数が低い女の子の扱いが違ったりします。
優等生にもなりたくないし、かといって低く扱われることも納得がいかない子もいる。
もしくは、すごくキレイで優等生として扱われるけど、性的に見られるのがすごく嫌だとか、いろんな形があると思いますが、わざと男の子っぽく振る舞うことで、そういうことから逃れようとしていると思います。』

『「知佳子」という人は、自分で書いた小説の中でも、出会った人の中でもすごく特別な人で、私を変えてくれた人だと思っています。
もっと広い目線で見れるようになったというか、「知佳子」を書くことで楽になれた面もあって、書いていてストンと腑に落ちた感じがしました。
「女だからこうじゃなきゃいけな」「大人だからこうしなきゃいけない」とか色々自分を縛っていたのは自分自身で、そのルールの外にいつでも出れて、ルールをかたくなに守っていたのは自分だったなと何となく感じることが出来ました。』

村田早耶香さんより『ハコブネ』を読まれる方へ

『社会の中でいろんな役割を押し付けられたりとか、ちょっとしんどいなとか、そうゆう人に「役割はそんなに頑張らなくてもいいんじゃないかな」と言う気持ちになってもらいたいです』

『ハコブネ』を読んだ感想

「とても読みやすくて、スラスラとページが運べました。19才の「里帆」が自分の性について揺れ動いているんですが、思春期の時にはどこかに属したい、きちんとカテゴリにはまりたいと悩む事って、振り返ると自分にもそうゆう時期があったなと非常に共感できました。悩んで悩んだところから色々行動を起こして自分を探していくたくましさに励まされ、女性のたくましさを感じました。」(レポーター)

「女性の方が書いた本だなと強く感じたのと、自分と相手と向きあうこと、自分自身の違和感と向きあい、パートナーとも向きあうことの大切さを感じ、同じ物事でも男と女では見え方が違ってくると思うのでそういった意味で、なんて人間は不思議生き物なんだとあらためて感じました。」(谷原章介さん)