芥川賞作家「川上未映子」さん著 長編恋愛小説『すべて真夜中の恋人たち』〜王様のブランチ

すべて真夜中の恋人たち

2011年11月19日の王様のブランチで紹介された、芥川賞作家「川上未映子」さん初の長編恋愛小説『すべて真夜中の恋人たち』です

川上未映子さんは2008年「乳と卵」で芥川賞受賞、2009年「ヘブン」で善とはなにか、悪となにかを描いています。

『すべて真夜中の恋人たち』のあらすじ

主人公は入江冬子(34) 出版前の作品の誤字脱字のチェックをする「校閲」の仕事をしている。一人部屋に膨大な文字と向き合っている、元々人付き合いが上手くなく、出かけるといえば真夜中の散歩である。「真夜中にはたくさんの光があった。」

そんなある日冬子は一人の男性と知り合う。高校で物理を教えている「三束(みつつか)」誠実そうな人だった。「今度は光の話をしましょう」その言葉が心に残り「三束」に合うのが楽しみになっていく。
「ほんの数度合っただけなのに自分でもなぜこんな気持ちになるのかがわからなかった。」
光の話をしているうちに少しずつ縮まっていく二人の距離。奥手だった冬子にはこれまで経験したことのない気持ちのたかぶりを覚える。
「光にさわることってできるんですか」
「わたしは三束さんに、さわることはできますか」

静かに燃え上がる冬子の恋を描いた作品です。

原作者「川上未映子」さんが語る『すべて真夜中の恋人たち』

『人を好きになって、切ない気持ち、青白くて静かに燃えている気持ちのダイナミズムを時間をかけ丁寧に書きました。』

●作品の中で切ない気持ちになったシーンは
『引っ込み思案で人とコミュニケーションがとれない冬子が渋谷の街を歩くんです。こんなにたくさんの人がいて、みんな行くところがあって帰るところがあるに、「私には何もない」』と思うシーン。

●「川上未映子」さんの思う幸せの形
『幸せとは“点”でしか存在しない、それをつなぎあわせて振り返った時に見える星座でしか無いと思います。あの時あの人のために頑張ったという記憶が一生自分をはげまし続けると思います。』

『すべて真夜中の恋人たち』のポイント

この作品はとても印象的な文章で始まります。
「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。」
その理由は「昼間の大きな光が去って、残された半分がありったけのちからで光ってみせるんだ」

昼間は太陽が光っているために星が見えない、でも太陽が沈んではじめて星が見える、この小説は人間もまたそうなんだと教えてくれます。
冬子は物語の中で大きな喪失感を味わいますが、冬子がそれを経験することではじめて真っ暗な中に光る星を日常の中で見つけることが出来ます。

読み終えると心がホクホクと暖かくなり、ジンワリと涙が浮かぶ作品。つらい思いをしている人、悩んでいる人に読んでほしい1冊です。